長袖

高校へ続く道は桜並木になっていて、春になると花は鮮やかに咲き乱れ、そして一週間ほどで散っていく。落ちた花弁が道路の端の方へと追いやられて茶色く腐っていく間に、木々は生命力が透けて見えるほどに濃い緑色をした葉を育て、自らが落とした花弁のこと…

憂き世話

あんたの、ふとした一言にどうしようもなく悲しくなってしまうことがある。でも、おれは、あんたの抱える過去を忘れろとか忘れるなとかそんなことを言いたいとは全くと言っていいほど思ってない。 だって、過去って一人ひとり違っていて、その過去があっての…

クイズです

突然ですがここでクイズをひとつ。いや、クイズっていうか、単なる質問っていうか、まぁとりあえずクイズです!! ジャジャン! Q.この模様はいったいなんという模様でしょうか? さぁレッツシンキングタイム ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ みなさん、考えはまとまりま…

憂き世話

夕方くらいから、日が暮れて数時間経った今まで、ずっとずっと同じ問題を考え続けている。 自分の頭が相当に悪いと気づいたのは最近のことで、「宿題面倒臭いよ〜」なんて台詞が、教室のあちこちから毎日聞こえてくるものだから、私は勝手に勘違いをしていた…

アソコ

彼女がアソコを見せてくれない。 そんなことで僕はもう2日も情緒不安定で、我ながらキモいと思っている。 僕に見せるのは恥ずかしいらしい。でも、これまでの男には見せることに抵抗がなかったらしい。 「どうでも良い男にはパカパカ股開けるよ、あなたはど…

湿気

ジメジメとしたこの土地の性質が、土地に生きる人々の性質を侵し、人々の心象も土地と同じく湿り気の強い腐葉土のような不快な柔らかさを携え始めたのはいつのことなのだろうか。 彼が生まれた土地は、山と山に挟まれた谷であった。集落の中心を流れる川の水…

吸水性

終わりがくる度に、自分の中に空洞がぽこりと生まれる様な心持ちになる。必死に立ち向かっていた対象がある日急に無くなってしまうことなんて、生きていく中では珍しいことではないのだけれど。 自分の中に生まれた空洞は、徐々に広がっていって、今まで生ま…

憂き世話

たまたま街中であなたを見つけると、それだけで嬉しいような悲しいような変な気持ちになって、思考が停滞してしまいました。 あなたがここを去ってから、もう何度夜が来て、その度、私は何度暗闇へ浸されたのか、もう分かりません。身体を濡らす暗闇が乾く前…

2016年10月21日のこと

僕の住む街で大きな地震が起きた。 揺れ始めた時に何をしていたのか、もうあまりよく覚えていない。ベッドに座って、振動する部屋の中で、棚から空き瓶や小銭をためていた小箱や木で出来た蛙の置物や、いろいろなものがポロポロと落下していくのを見ていた。…

ピアスを開けるのは完全に自己満足です。べつに誰かに見られたいとか、お洒落したいとかそんなんじゃなくて、自分の身体を自分のものだって確認するための行為。自傷行為。腕を切ることにはまだ抵抗があって、というか腕を切るのはあらかさま過ぎる気がする…

憂き世話

美咲先生は大学生で、毎週火曜と木曜に僕の家へやって来て国語を教えてくれる。僕は文章を読むのが嫌いで、小説ならまだ少しは楽しいと思えるのだけれど、評論なんて何が楽しいのか分からないし、細かな字が整然と並んでいる様を眺めているとなんだか頭の中…

演者

人間は地域の中で無意識的に与えられた役を演じている。大学のある講義でそういう話があった。文学的な視点から地域を見るというテーマで行われた講義で、ある小説について教授が解釈し、そこから導き出される論を説明するというもの。学部全体の必修科目だ…

憂き世話

お前が死んだって世界は変わらねえよ。ただ少しの数の人間が悲しんで、そしてお前のことを忘れていくだけで、そんなことでは世界は変わらない。だから生きるってのも虚しいだけなら、もう好きにしてしまえばよいさ。お前が死んだって世界は変わらない。いや…

憂き世話

誰かが自分の名前を呼んだような気がして振り返ると、クラスで一番可愛いと言われている女子と目が合った。僕は2秒ほど彼女を見つめていたが、目が合った途端に彼女の眉間にはその端正な顔に似合わぬ、深々とした皺が生み出された。自分のことを不審に思っ…

汚い部屋

メンヘラ気質に拍車がかかってきている自覚がある。隠していたけれど、隠し通すのもそろそろ限界なのかもしれない。 正直、今までの人生病んでいた記憶しかない。別に鬱病とかそういう病気ではなかったと思う。ただ精神的に弱いだけで、そんなのは甘えだろう…

田舎のこと

実家のある辺りは山に囲まれていて、川が流れ、民家よりも田圃の数の方が多いような場所である。 幼い頃から生き物が好きだった。好き、というよりは生活の中に生き物がいることが当たり前のこと過ぎて、生き物と関わらざるを得なかったと言った方が良いのか…

海辺を想う

あの日の海を思い出してみる。 死んでも構わないと思いながら歩いていると、海に来ていたのだった。砂が足に纏わりつく鬱陶しさすらどうでも良く、ただ生きる事の不遇さや理不尽さをアルコールで溶かしながら歩いていた。波の音が思っていたよりも優しかった…

花火

納涼祭の終わりには花火をするのが恒例だった。納涼祭と言っても、小さな村の小さな公園で行われる小さな祭りで、公園の真ん中に建てられた櫓の周りで盆踊りをしたり、ちょっとしたグラウンドゴルフ大会が行われたりする程度のものだった。週に何度か公民館…

憂き世話

薄っぺらいビーチサンダルが小石を踏みつけた。小石はビーチサンダルの底に食い込んで、ビーチサンダルの底に小さな窪みが出来た。鋭利な小石に刺されたそこからは一滴の血も流れない。夏の夜の国道沿い、歩道を歩いている。通り過ぎていくのは大型のトラッ…

憂き世話

隣室から喘ぎ声が聞こえるこの深夜三時半の部屋で僕は物語を終えるのだ。隣で行われているのは生殖活動なんかではない。学生のくせに子供を作ろうとするはずはない。じゃあ、何のための行為なのか? 薄い膜の中は牢獄以上に残酷な場所なのだとお前は分かって…

半袖

気温が上がってきて、半袖姿の人々が目立つようになってきた今日この頃。まだ、半袖は早いだろう、いや、いけるかも、いや、やっぱまだ早いかな、といった具合に毎日着る服について思案する。特にこだわりはなく、よく「寝巻き?」と言われるので「正装です…

青年

小説をいつか書いてみたいと思っていた。本を読む習慣はなく、今でも大した数の本を読んではいないが、本を読む度に感動したり、しなかったりしていた。本を読むことが嫌い、と思ったことはない。勉強は現代文だけ大好きだった。英語も現代社会も世界史も数…

憂き世話

眼を開くと、真黒な、どろどろとした液体が身体を包んでいた。呼吸ができないが、不思議なことに苦しくはなかった。身体の中が火照って、血が巡っている感覚が脳味噌を揺らす。自分の血液ではない、何か別の生き物の群れが身体の中を駆け巡っている。自分自…

高校時代のある日

この辺りにしては大型の書店の駐車場の端の段々になったところに腰掛け、友人と2人何をするでもなく、自分たちの退屈な日常について話している。アスファルトの割れ目や継ぎ目から雑草が生えていて、風にゆらゆらと揺らされている。学校帰りに、中学の頃から…

憂き世話

ぴいぴいと鳴く小さな生き物が、うちへやって来た。やって来たというか、風呂から上がって、火照った身体を冷やそうとミネラルウォーターを飲むために冷蔵庫の扉を開くとちょこんと座っていた。私が「うわっ」と叫ぶと、ぴい、と鳴いた。そっと手を伸ばして…

日常

講義が終わって近所の書店に行った。岩波新書蔵出し祭というキャンペーンをしていて、キャンペーン中は岩波新書1冊購入につき1回福引きに挑戦できる。福引きの商品は岩波の限定グッズ(非売品)らしい。twitterでそのキャンペーンを知ったので、講義が終わっ…

汽車

汽車に乗っている。田舎なので、電車ではなく汽車。通路を挟んだ向こうの席に老夫婦が座っている。老夫婦は、この汽車に乗り換える前の汽車にも同乗していた。もう車を運転していないのかもしれない。だから汽車に乗っているのかもしれない。それにしても、…

憂き世話

フルはウロを私に渡そうとビを伸ばした。私はそんなものにはもう飽きてしまったので、視線だけはウロの方に向けて、じっとその場に座っていた。フルは「アラ、ゴキゲンナナメカナ」なんて言って、ウロを、ことり、と置いて向こうへ行った。ここには、フルの…

憂き世話

僕はウサギだ。これは比喩でもなんでもなく、近所の遊園地でウサギの着ぐるみを着て風船を配っている。バイトの求人を探していたら、たまたま見つけた仕事だった。なんとなく楽しそうだと思い、なんとなく応募したら、数日後には、僕はウサギになっていた。…

憂き世話

この部屋に居ると、落ち着くので、私はよくこの部屋を訪れます。私は几帳面な性格ではなく、どちらかというと大雑把な性格をしているせいもあって、この雑然とした空間を堪らなく心地良く感じるのです。今、私の周囲は様々な物で溢れて、少しでも手を触れた…

機械音痴

母親は携帯電話を使うのが下手だ。スマホを使っているくせにyoutubeの見方が分からない。LINEも使うが、なぜかカタコト。たまに倒置法。ごく稀にではあるが「あ」「き」「く」など謎の平仮名が送られてくる。怖い。祖母も携帯電話を使うのが下手だ。メールは…

回想

彼の故郷は小さな集落である。水田や畑が民家と同じ数ほど並ぶその集落には、1年中、土の匂いが漂っている。集落の中には1本の川が流れている。彼の家はその川沿いの崖の上に建っていて、彼は常に水が岩にぶつかったり渦を巻いたり忙しく流れ続ける音を聞き…

憂き世話

「わたしは貴方の椅子になって差し上げたいの。」「椅子か、そんな物になってどうするつもりなんだい?そんな物にならなくともきみは僕の恋人であるし、それに、きみは椅子になるにしては不恰好な形をしているよ。きっと、安定感が無いものだから、誰にも座…

大人感

ふとした時に、沸々と湧き上がるこの嫌な感情の名前は何というのだろう?というか、名前のある感情なのだろうか?考えたところで答えなど誰にも分からない。もし分かるとしたら、それは、それを抱えている僕自身にでしかありえない。いつもいつも、考えてい…

昔、僕のことを好きだと言ってくれた女の子がいた。背が高くて、優しい女の子。 僕はその頃、恋愛の仕方が全くと言って良い程に分かっていなくて、初めて付き合った女の子と不味い別れ方をした後で(別れたと言うより掴み損ねたと言う方がしっくりくる)、不…

憂き世話

彼は硝子で作られた兎である。彼を見るものは声を揃えて綺麗だ、と言った。しかし、彼には色彩が無かった。透明なその身体の内側を光は貫通し、彼はその様子を見て、憂えていた。彼の身体を貫通し切ることのできなかった光の欠片達は、彼の足元に彼の影を薄…

一番好きな数字は何?

小さな頃、好きな数字は2であった。理由はなんか格好良いから。2以外の数字はダサく見えたし3や7に至っては、なんて変な形なんだ!と思っていた。中学くらいになると、6や9のフォルムもあれ?なかなか良いな、と思い始め、高校に入ると、あれ2ってな…

万年筆と左手

成人の祝いに貰ったお金で万年筆を買った。ふと思い付いてネットで色々調べてみると思っていたより色々な種類があり、デザインも様々で、面白い。知識など無いので、とりあえずデザインやロゴが気に入ったものを買った。ひとつだけ問題があって、僕は文字を…

聖夜

クリスマスだから献立にケーキって書いてあったけれど、今は何も食べちゃいけないから、食べられなかった。病室のベッドの上で母は言った。手術は15時半頃から始まって、僕は、姉が母親の入院中の暇潰しにと持ってきていた「星の王子さま」を読んで、手術が…

楽器の一つひとつが鳴らす音を違える、つまり、個性を持つ様に、声も個性を持つ。声は音だ。そして、楽器の個性を最大限生かす役割を持つのが奏者だ。良い音が鳴る楽器でも、奏者次第では退屈な演奏となる。楽器を生かすも殺すも奏者次第である。声の持ち主…

憂き世話

誰も居ない様な夜だった。まるで、孤独の様だった。紫煙が空気に溶ける事に意味は無かった。黒い空に穴が空いていて、それは突然、視界の上へ上へと泳いでいった。此処はゆっくりと、しかし、僕達の思いもよらない速度を保っている。知っているようで分かっ…

欲しい物が沢山ある。カメラや服やCDやアイスクリームや豚肉や。ありとあらゆる価値観や文化や人間が溢れている現代においても生活を豊かにするのは簡単に思えて難しい。過酷な労働状況、就職難、ブラック企業、そんな言葉を耳にする機会は多いけれど、まだ…

一人暮らしを始めるまでの約18年、毎日食べ続けていた祖母の手料理だが、あとどれくらい食べることができるのだろうか。何回、食べれるのだろうか。ふと、そんなことが頭に浮かんだ。人生は短い。思っているよりも、たぶん短い。寝る。

隣人

隣人は僕と同じ大学生である。茶髪で身長も高い方で、THE大学生な見た目をしている。たまに廊下ですれ違うが挨拶はしない。僕は彼が苦手である。というのも、五月蝿いからだ。関わりなんてないし、ただ部屋が隣というだけの関係だが、苦手である。彼は昼間も…

印刷物を40ほど用意しようと思っていたら、図書館のプリンターがインク切れで使えなかった。プリンターは2台並んで設置されているので、隣にあるもう1台に向き直ると、そいつもよくわからないエラーで使えない。昼休憩はあと5分。3限に間に合わない。学部棟…

寝なければ

綺麗な歯並びも、男性として魅力のあるだけの身長も、丁度良い広さの額も、パッチリとした目も、筋の通った鼻も、さばけた性格も、楽天的な考え方も、たくさんの友人も、白い肌も、将来の夢も、理想の未来も、充実した心も、その他諸々。手にしていないし、…

憂き世話

彼が会いに来てくれた。彼は温和な人で、私は彼の怒った姿を見たことはなかった。私にまだ心を許してくれてないのか、と不安になったこともあるけれど、彼の幼なじみですら彼が怒っているのを見た記憶がないという話を聞いて、あ、彼はそういう人なのかと安…

ベランダ

最近の僕にとって、ベランダは聖域である。干しっぱなしのバスタオルは夜の冷たい風に吹かれて、冷たくなっている。慣れない煙草を吸ってみるのも、世の中を客観するため、である。大学生になったから今更、煙草如きで、非行だ、なんて誰も言わないのだ。室…

憂き世話

人混みの喧騒の中にふわふわ浮いている、アイツは何者なのだろうか。生き物であるかどうかすら判別不可能である。少なくとも、アイツは多くの人々が行き交う街の片隅でふわふわと浮かんでいる、ということだけは僕の足りていない脳味噌でも判断できている。…

憂き世話

朝、目が覚めると隣に彼女が眠っている。朝は気分が良い時と悪い時がある。今日は少し気分が良い朝だ。僕はテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押した。画面の中では、先日この町で起きた女子大生失踪事件について様々な議論が交わされている。警察は…