過去。

たまに思い出す、煙草の匂いの染み付いた空気と、片付いていない薄暗い室内。

 
小学生の頃、1学年が10数人の小さな学校に通っていた。高学年になって、なぜか仲良くなった4人組の内の1人の家に、ちょくちょく遊びに行っていた。
 
あまり綺麗とは言えない家だった。薄暗い部屋の中、小さなブラウン管のテレビでスマブラやグラセフをしたり、ぼーっと漫画を読んだりしていた。
トイレの壁際には少年ジャンプが積んであって、煙草の吸殻が洗面台に落ちていた。
 
そいつの家庭環境について、大人達が色々言っているのは知っていた。でも、そんなことはどうでも良いし、興味もないし、大人は五月蝿くて嫌な生き物だと思った。
 
赤茶色の髪の毛からは煙草の煙の名残のような匂いがして、おれはそれが好きだった。
 
綺麗とは言えない家だった。良いとは言えない家庭環境を抱えてる奴だった。でも、楽しいことや、楽しくないことや、そんなのを共有できたらそれで良かった。
 
中学生になって、気不味い間柄になってしまったのは、お互い子どもだったからだと思う。
 
文化祭であいつがどんな思いであの曲を歌ったのかは分からない。あいつが歌う横で、下手くそなギターを弾きながら、本当に謝りたくなったことと、どうしようもないやるせなさを感じたことを覚えている。
謝り損ねたこと、もう謝ることはないだろうけど、忘れることもないだろう。
 
 
 
中学を卒業した頃、あいつは引越してしまって、あの家には誰もいなくなってしまったらしい。
 
 
 
煙草の匂いの染み付いた空気と、片付いていない薄暗い室内。
煙草の煙の名残のような匂いのする、赤茶色で少し傷んだ髪の毛をしていた、あの子。