憂き世話

人混みの喧騒の中にふわふわ浮いている、アイツは何者なのだろうか。生き物であるかどうかすら判別不可能である。少なくとも、アイツは多くの人々が行き交う街の片隅でふわふわと浮かんでいる、ということだけは僕の足りていない脳味噌でも判断できている。
僕は昔から人と話すことが苦手で、親と話すことさえも億劫に感じる程に口下手である。そのせいか、友達と呼べる人の数は極端に少なく、放課後に聞こえる「この後どうする?」だとか「部活面倒臭いなぁ」といった言葉が僕にかけられることは殆ど無かった。別にそれを不満に思うことは無いけれど、たまに、ふと人恋しくなった時に誰に連絡をすれば良いのか分からなくて切なく感じることはある。それくらいのこと。
今、改めて考えてみると、それは空気のような、いや、空気なんかにも及ばないような、誰かが生きる上では、不必要な存在であったのかもしれない。特定の誰かによって認識をされていたとしても、それがそれらの人に必要と言えるほどの存在であったのか疑わしい程に。

アイツは何者なのだろうか。

思えば、どの教室にもひとりやふたりは虐げられている人物がいた。特に理由もなく、彼らは避けられ、馬鹿にされ、教室の隅で息を殺して1日を過ごしていた。僕は、それを何の気なしに見ている傍観者であった。そして、そのことに気付いている者は居なかった。教室内の意識は全て、強い者と弱い者に向いていた。

アイツは。

人混みは苦手だ。此処を行き交う全ての人間がひとりずつ物語を背負っていると考えると、どうしようもなく気分が重くなる。息を吐くように、もしくは吸うように生きろよ。何をごちゃごちゃ考えているんだよ。飲み込まれる。飲み込まれてしまう。逆らうこともなく飲み込まれていく。ただ。それだけ。

僕の足りてない脳味噌でも理解できてしまった。

それくらいのこと。