ベランダ

最近の僕にとって、ベランダは聖域である。干しっぱなしのバスタオルは夜の冷たい風に吹かれて、冷たくなっている。
慣れない煙草を吸ってみるのも、世の中を客観するため、である。大学生になったから今更、煙草如きで、非行だ、なんて誰も言わないのだ。室外機の上にグラスを置いて腰掛けて、煙が溶けていくのを眺める。身体の中にも、溶けていく。アルコールと形の無い不健康。
最近の僕は、自分を社会の中に溶解させまいと必死である。舌裏に穴を開けてみたり、舌先に剃刀を立ててみたり、美味しいとも思わない煙草に手を出してみたり(酔っ払った状態で吸った時だけは最高に美味かった)、不意に飲酒をしてみたり。アルコールは元々好きではあるが。
社会に対する、小さな小さな反抗である。いや、反抗というか、なんというか、こんなことでしか自分の存在を確認できない僕が社会に飲み込まれないための、社会との間に生み出した薄くて脆い壁のような自意識である。
とてつもなくダサいけれど、どうやらそういう人間らしい。僕は。
誰にも見えないように、僕は僕を守っている。人知れず、誰にも干渉されない僕という時間を、存在を確認する日々である。
納得のいかない毎日に嫌気が刺して、もうどれくらい経ったのだろうか。
自由は結局、僕に尻尾しか見せてくれていない。

あぁ、今日もまた夜だ。暗闇に溶けていくのは煙だけではないのだ。

つまらない日々にはとっくに飽きている。筈なのに、まだ、つまらない日々の中にいる。抜け出せない。だから、僕はベランダに逃げ出す。数分間だけは、僕だけの夜だ。