憂き世話

フルはウロを私に渡そうとビを伸ばした。私はそんなものにはもう飽きてしまったので、視線だけはウロの方に向けて、じっとその場に座っていた。フルは「アラ、ゴキゲンナナメカナ」なんて言って、ウロを、ことり、と置いて向こうへ行った。
ここには、フルの他にも2匹のフルがいる。大きなフルと小さなフルだ。「タダイマ」と大きな声で言ってさっきのフルよりもひとまわり小さなフルがバタバタと近づいてくる。私は、このフルが好きだ。小さなフルが2本のビを私に伸ばして抱きついてくるので、私は小さなフルをペロリと舐めてみた。小さなフルは大抵の場合、似たような匂いがする。散歩している時にすれ違う小さなフルも、今私に抱きついている小さなフルも、皆同じ様な匂いを発している。
私は1日1回は外に出る。外は気持ちが良い。外には沢山のフルがいる。大きいのから小さいのまで、どこを見てもフルだらけだ。そんな中で私は、たまに仲間とすれ違うことがある。「やぁ、今日も元気そうだね」なんて簡単に挨拶を交わしたり「君のフルはなんだかひょろ長いね」なんて笑い合ったりする。それにしても、すれ違う大半が仲間ではなくフルであるが、フルの繁殖力には驚くばかりである。世界にはどれ程のフルがいるのだろう。
ある日、私はフルのパニが膨らんでいることに気付いた。いつから膨らみはじめたのだろう?毎日眺めているので気づかなかったが、明らかに他のフルに比べてパニが膨らんでいる。小さなフルは、フルのパニにぺをくっつけては何かを話している。大きなフル(パニが膨らんでいない方のフル)はフルのパニに嬉しそうに声をかけている。
しばらくして、フルがいなくなった。大きなフルと小さなフルと私だけがここにいて、2匹のフルはソワソワしている。でも、2匹はなんだか嬉しそうにも見える。日も暮れて、私が眠りにつくかつかないかという時、突然、なんだかうるさい音が聞こえたかと思うと、大きなフルは小さなフルを連れてどこかへ行ってしまった。夜遅くに騒がしいなぁ、と思いながら私は眠りについた。
次の日、目を覚ますと大きなフルと小さなフルは帰ってきているようだった。フルはどこへ行ったのかまだ帰ってこない。
数日経って、フルが帰ってきた。膨らんでいたパニは元に戻っていた。大きなフルが何かを抱えている。小さなフルがそれをきゃあきゃあ言いながら眺めている。なんだろうと思い、私も大きなフルに近づいて様子を伺ってみる。大きなフルが2本のビを絡ませていて、2本のビの間から小さなピが覗いていた。驚いたことに、大きなフルは小さなフルよりもさらに小さなフルを抱えていたのだった。フルが増えたのだ。驚くべき繁殖力だ。
小さなフルよりもさらに小さなフルは自分で生活することが出来ないらしい。おそらく生まれたてなのだろう。もしかすると、膨らんでいたフルのパニから分裂して生まれたのかもしれない。パニの膨らみは、たしかこの小さな小さなフルと同じくらいだったような気がするし、あの膨らみがこの小さな小さなフルだったとしたならば、この小さな小さなフルがここに来たときにフルのパニが元に戻っていたのも納得できる。生命の神秘というやつか。
フルは分裂して増えるという結論に達したところで、私は眠くなって、ウォムを閉じた。