憂き世話

隣室から喘ぎ声が聞こえるこの深夜三時半の部屋で僕は物語を終えるのだ。隣で行われているのは生殖活動なんかではない。学生のくせに子供を作ろうとするはずはない。じゃあ、何のための行為なのか? 薄い膜の中は牢獄以上に残酷な場所なのだとお前は分かっているのか? 知るかそんなこと。

いいか、僕は今ここで物語を終えるのだ。お前らが何の意味もない快感に自分を狂わされている間に僕は自分に狂わされて、そして、筆を置くのだ。僕は僕を産み落とすのだ。目的のない生は、目的のない死と同義だ。

死ぬのは怖いか。生きる方がよっぽど怖くはないか。大丈夫か。お前らなら大丈夫だろ。阿呆みたいに汚れてゆけば良い、知らぬ間に罪を重ねてゆけば良い。そんなに気持ちの良いことはないだろう? なあ、物事は往々にして一義的には出来ていないんだ。僕が今こうやって産み落としたものにも、ふたつ、みっつ、よっつ、いや、そんなもんじゃない、もっともっと、数え切れないくらいの意味とか形とか、そういう何かがミルフィーユみたいに積み重なってるんだ。迷い込め。迷え。生きることは生きるだけではありえない。だからとりあえず、生きてみれば良いさ、あんたも。

あぁ、筆が折れてしまった。なんだよ、安物買うんじゃなかったな。まだ物語は終わってないんだが、新しい筆を買いに行くのも面倒臭いな。やってらんねぇや。