花火

納涼祭の終わりには花火をするのが恒例だった。納涼祭と言っても、小さな村の小さな公園で行われる小さな祭りで、公園の真ん中に建てられた櫓の周りで盆踊りをしたり、ちょっとしたグラウンドゴルフ大会が行われたりする程度のものだった。週に何度か公民館で盆踊りの練習をした。アラレちゃん音頭やドラえもん音頭を練習した。ドラえもん音頭のメロディがなんだか苦手で、今でも思い出す度に変な気分になる。

花火は手持ち花火と吹き上げ花火で、打ち上げ花火などといった立派な花火はなかった。打ち上げるために安全を確保できるほどの広い場所もなかったし、スーパーやホームセンターに売ってある花火セットを使っていたので仕方ない。

まず子供たちは手持ち花火をそれぞれに楽しんだ。お互いの火を貰いあったり、青年団のお兄さんがライターで火をつけてくれたりした。手持ち花火がなくなってくると、次は線香花火の出番だ。子供たちはなぜか線香花火が好きだった。決まって誰が一番長い間燃やし続けることができるのか勝負をした。勝った記憶はないし、負けた記憶もない。ただみんな無駄に緊張して、手をプルプルと震わせていたのを覚えている。

最後はいつも吹き上げ花火だった。お兄さんが、子どもたちは危ないから離れてね、と言うと、みんな数歩後ろに下がって、導火線に火をつけるお兄さんをじっと見つめる。なぜかみんな真剣で、一言でも喋ってしまえば、お兄さんが驚いて火をつける場所を間違えてしまい、花火が爆発してしまうのではないかと思ってしまうほどに静かに黙って、誰ひとり微動だにしなかった。

火がつくと、わぁ、と小さな歓声がポツポツと上がるが、それらの声がシューシューと吹き出す炎の音に掻き消されてしまうほどに子どもたちの数は少ない。

吹き出す炎がだんだんと小さくなっていくのと同じように、子どもたちの興奮もだんだんと小さくなり、火が消える。

田んぼに挟まれるようにして伸びる街灯もない真っ暗な道を歩き、家に帰ると、部屋の中は眩しいほどに明るく感じた。

そうして1日が終わっていった。