憂き世話

溜め息を吐いた。何か悪いものが、この薄い不恰好な唇の隙間から、ふっ、と流れ出していく想像。しかし、何も変わらない。あの男はここにいない。今頃どこかで適当に会える適当な女と適当に酒を飲んで適当な相槌をうっているんだろう。

仕事帰りに買ったコンビニ弁当はもう冷めてしまった。生姜焼き弁当、ご飯大盛り。しょーもない晩御飯。発泡酒の缶を開ける。毎日、五百ミリリットルを一本。ビールは高いから買わない。味の違いもわからないし。

恋なんてもの、もう忘れてしまった。あの男が好き。キスしたい。セックスしたい。うん、確かにそう思う。でも、それだけじゃ恋ではないのだろう。恋ってのは、もっと、ガーッとしたどうしようもない感情を持て余して、もうどうしようもなくて、どうしようもなく幸せな気持ちのまま毎日を過ごすあの感じのことなんだと勝手に思っている。

発泡酒は苦い。苦いけど美味しい。これが飲めないやつはまだまだ子供。これを不味いとかいうやつはまだまだ子供なんだよ。ビールは高いから買わない。てか、買えない。

発泡酒はビールの紛い物だ、ってあの男は言ってたな。味の違いが本当に分かんのかな。

 

紛い物で良い。だって、これは恋ではないし。