雨が降り出した。私は室内にいる。だから濡れない。当然のことだが、その当然が当然であることが、なんとなく恐ろしく感じられる瞬間がある。

狭い部屋のベッドの上で、ひとりでいるのに服を着ていることを、ふと不思議に思う。着飾る必要もないし、寒いわけでもない。何の必要があって服を着ているのか、分からないけれど、私は毎日服を着替える。部屋から出なくても、人に会わなくても、毎日、毎日。

それでも、一日に一度は必ず全裸になる。身体を洗うためである。誰しもが、一日に一度は全裸になる。そして、私は、着ているスウェットを脱いでみることにする。これから風呂に入るわけではないが、だからこそ、脱いでみることに意味がある。いや、意味なんてない。でも、脱ぐ。全てのことには本質的に意味なんてものは付随していないのだから。

まずは上から。少しだけ謎の背徳感。誰に見られているわけでもないのに、裸になるということは緊張を伴う。下も脱ぐ。当然、下着も脱ぐ。少し躊躇うが、しかし、脱がなければいけない。なぜなら、もう上半身は裸だからだ。意を決して、パンツを一気に下ろす。ついに全裸だ。紛う事なき、全裸。私は今、特別な理由もなく全裸になっている。そもそも、全裸になることに理由がいるのだろうか。いらない。全裸になりたい時に全裸になれば良い。しかし、公共の場所では全裸になってはいけない。法律でそう決まっている。法律は守らなければいけない。私は、法律を守りながら全裸になっている。言い換えれば、全裸で法律を守っている。

インターホンが鳴る。きっと、宅配のお兄さんが数日前に注文していた、好きなブランドのネットショップ限定Tシャツを届けに着たのだろう。さっきまで着ていたスウェットの上下を手に取って、全裸のまま玄関へ向かう。扉の前までたどり着く。さて、もしも、このまま全裸で玄関の扉を開ければ、その瞬間、私は、全裸で法律を守っている人だったのに、全裸で法律を破る人になってしまう。全裸で法律を破るなんていうのは、この世で最も避けたい法律の破り方である。人を殺す方がマシかもしれない。世の中は、そういう危ういバランスで成り立っている。そして、私は、スウェットを着る。ドアを開けて、荷物を受け取る。

受け取りのサインを書き終えて、ボールペンをお兄さんに返す。

「ありがとうございます!」

お兄さんが元気良く言う。その肩が少し濡れている。そういえば、雨が降っているのだった。

「天気悪いのに、こちらこそ、いつもありがとうございます」

立ち去ろうとするお兄さんの背中に声を掛けると、お兄さんは振り向いて、

「ありがとうございます!」

と、また元気良く笑った。

笑顔の素敵なお兄さん。お兄さんの背中を見送りながら、ゆっくりドアを閉める。雨に濡れながら働くお兄さんが、早く家に帰ってあったかいお風呂に浸かれますように。お兄さんの担当の再配達が少ない日でありますように。そんなことを願いながら、私は、ノーパンだった。