祖母との電話から

祖母と電話をした。祖母はよく電話をかけてくる。最近は夜中の23時頃にかけてくることが多い。寝た方が良いよ、と言うと、あんたは忙しくて夜中しかまともに電話に出れんから、と言っていた。昔から両親は共働きで、家に帰ってくるのは早くても19時や20時だった。だから僕たち姉弟は祖母に育てられたようなもので、なぜだかはわからないけれど特に祖母は僕のことを可愛がってくれる。そして、なぜだか僕も家族の中で1番心を許せるのは祖母だと思っている。

 

電話の内容はいつも通りで、近況報告のような話ばかりだった。弟の祖母に対する当たりがきつい話、父親が高い車を買って母親がそれに怒っている話、先日のグラウンドゴルフ大会の成績の話。

父親が母親に怒られている話をしているといつしか祖父の話になった。

祖父は息子(僕の父)が教師になって教師の嫁(僕の母)をもらったことに鼻高々で「これでもう、わしは仕事を辞めてのんびりできるわ」と自慢し回ったあげく、後に引けなくなって本当に定年になる2年前の58歳にして仕事を辞めてしまったらしい。

そんな話、初めて聞いた。

 

祖父は僕が小学校2年生の時に亡くなった。卒業式が終わって家に帰る最中、近所のおばあさんから「おじいさん、亡くなったで」と聞かされて、走って家まで帰ったことを覚えている。

 

電話の最中、祖母は祖父と離婚したかった、と言った。

嫁いできてから、祖父とその母親である姑から沢山いじめられたのだと言う。それに、祖父はお金がないのに飲み回ってばかりいて、祖母はその分パートで働いて、ギリギリの生活をしていたらしい。その状況で、息子を大学に行かせ、娘を短大に行かせていたのだから、祖母の苦労は相当なものだったのだろう。

もし祖母が祖父と離婚していたら、僕もここにいないのだから、本当に頭が上がらない。

 

祖父が亡くなってから、今でも、祖母は祖父を思い出して泣くことがある。いろいろなことがあって、苦しかったとしても、悲しかったとしても、それでもやはり祖母は祖父を愛していたのだろう。

 

だから人間はわからない。どんなに苦しくて悲しくても、一緒にいるというだけで愛してしまうことができる。

 

考えてみれば、自分も今の恋人に対して苦しくて悲しくて仕方ないけれど、一緒にいるだけでなんだか全部(どうでもよくはならないけれど)なんとかなるような気がしてしまう。

もちろん苦しくて悲しいだけではないのだけれど、きっとどんなに苦しくて悲しくても奥の奥の部分で大丈夫なのだと感じてしまうのだと思う。

それが愛なのかはわからないけれど。

 

僕にも祖母と同じ血が流れているんだなぁ、と思った。

 

電話の後、しばらくして、恋人が帰ってきた。彼女は今実習中で、夜遅くまで実習の準備やら何やらで疲れきった彼女は一瞬で服を着替えてベッドへ飛び込み、一瞬で眠ってしまった。

少し浮気性で寂しがりやでやんちゃで真面目な彼女に、良い夢を見続けて欲しい。