2015-01-01から1年間の記事一覧

聖夜

クリスマスだから献立にケーキって書いてあったけれど、今は何も食べちゃいけないから、食べられなかった。病室のベッドの上で母は言った。手術は15時半頃から始まって、僕は、姉が母親の入院中の暇潰しにと持ってきていた「星の王子さま」を読んで、手術が…

楽器の一つひとつが鳴らす音を違える、つまり、個性を持つ様に、声も個性を持つ。声は音だ。そして、楽器の個性を最大限生かす役割を持つのが奏者だ。良い音が鳴る楽器でも、奏者次第では退屈な演奏となる。楽器を生かすも殺すも奏者次第である。声の持ち主…

憂き世話

誰も居ない様な夜だった。まるで、孤独の様だった。紫煙が空気に溶ける事に意味は無かった。黒い空に穴が空いていて、それは突然、視界の上へ上へと泳いでいった。此処はゆっくりと、しかし、僕達の思いもよらない速度を保っている。知っているようで分かっ…

欲しい物が沢山ある。カメラや服やCDやアイスクリームや豚肉や。ありとあらゆる価値観や文化や人間が溢れている現代においても生活を豊かにするのは簡単に思えて難しい。過酷な労働状況、就職難、ブラック企業、そんな言葉を耳にする機会は多いけれど、まだ…

一人暮らしを始めるまでの約18年、毎日食べ続けていた祖母の手料理だが、あとどれくらい食べることができるのだろうか。何回、食べれるのだろうか。ふと、そんなことが頭に浮かんだ。人生は短い。思っているよりも、たぶん短い。寝る。

隣人

隣人は僕と同じ大学生である。茶髪で身長も高い方で、THE大学生な見た目をしている。たまに廊下ですれ違うが挨拶はしない。僕は彼が苦手である。というのも、五月蝿いからだ。関わりなんてないし、ただ部屋が隣というだけの関係だが、苦手である。彼は昼間も…

印刷物を40ほど用意しようと思っていたら、図書館のプリンターがインク切れで使えなかった。プリンターは2台並んで設置されているので、隣にあるもう1台に向き直ると、そいつもよくわからないエラーで使えない。昼休憩はあと5分。3限に間に合わない。学部棟…

寝なければ

綺麗な歯並びも、男性として魅力のあるだけの身長も、丁度良い広さの額も、パッチリとした目も、筋の通った鼻も、さばけた性格も、楽天的な考え方も、たくさんの友人も、白い肌も、将来の夢も、理想の未来も、充実した心も、その他諸々。手にしていないし、…

憂き世話

彼が会いに来てくれた。彼は温和な人で、私は彼の怒った姿を見たことはなかった。私にまだ心を許してくれてないのか、と不安になったこともあるけれど、彼の幼なじみですら彼が怒っているのを見た記憶がないという話を聞いて、あ、彼はそういう人なのかと安…

ベランダ

最近の僕にとって、ベランダは聖域である。干しっぱなしのバスタオルは夜の冷たい風に吹かれて、冷たくなっている。慣れない煙草を吸ってみるのも、世の中を客観するため、である。大学生になったから今更、煙草如きで、非行だ、なんて誰も言わないのだ。室…

憂き世話

人混みの喧騒の中にふわふわ浮いている、アイツは何者なのだろうか。生き物であるかどうかすら判別不可能である。少なくとも、アイツは多くの人々が行き交う街の片隅でふわふわと浮かんでいる、ということだけは僕の足りていない脳味噌でも判断できている。…

憂き世話

朝、目が覚めると隣に彼女が眠っている。朝は気分が良い時と悪い時がある。今日は少し気分が良い朝だ。僕はテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押した。画面の中では、先日この町で起きた女子大生失踪事件について様々な議論が交わされている。警察は…

憂き世話

世界の極一部である。免れることの出来ない真実。僕は世界の極一部である。取るに足らない世界の極一部である。居なくなったところで痛くも痒くもない世界の極一部である。だから、世界から乖離したいと願う。いや、乖離とまでいかなくて良い、ただ、少しだ…

下書き

誰でもないたった1人の自分に成りたいなんてことを思っている人は多いと思う。個性派、とか目指しちゃう人も多い。でも、「個性派」のモデルは各々の中に確実に存在していて、そこを目指して個性を磨いている人が大半だと感じる。それって個性なのか。こう在り…

帰省

実家から離れてまだ1年と少ししか経っていないのに、たまに実家に帰ると色々な変化を身に染みて感じる。少しだけ、1人だけ取り残されたような気分。 リビングにソファが増えたこと、風呂場のドアノブが帰る度にグラグラになっていくこと、弟の身長が伸びて…

空気

生き物は空気を吸って生きている、そんなことは誰でも知っているし、当然のこと過ぎて意識している人の方が少数だ。それでも僕らは間違いなく呼吸をしていて、誰一人の例外なく酸素を取り込んでいる。相変わらず僕らは8畳の小さな部屋で、欠伸を噛み殺して、…

お酒を飲むと気分が良くなるなんてことはなく、吐き気の方が先に来てしまう体質。飲み会とか行って馬鹿な飲み方ばかりしてるけれど、僕は酔いが回る前に気持ち悪くなってしまうので周りの人達が気分良さそうに騒いでいるのを見て羨ましく感じる。そして次の…

盆には早く起こされて、嫌々墓掃除の手伝いをして、墓参りをして、どこかで昼飯を食べて帰る。それが毎年の恒例行事のようになっていて、去年まではいつもその流れの中で眠い眠いと心の中で思いながら車に揺られていた。今年からはバイトを初めて、盆はバイ…

うさぎ

バイト先で「誰にも嫌われそうにないよねー」と言われた。「たぶんどこに行っても、無難にやっていけるよね。」とか「でも、トロいやつが嫌いな人には目をつけられるかもしれないね。」とか「でも、なんだかんだ嫌われないと思う。」とか「月とかに取り残されても…

苦笑

君はいつも、自分のことばかりで、他人を見下している。君はいつも、丁寧な言葉で丁寧に誰かを貶める。自分の考えていることは正しいと信じて疑わず、沢山の定義とか理論とかを知っていることに恍惚としている。でも、君は、アマガエルとシュレーゲルアオガ…

色々

3年間付き合ってる彼女がいても、あんなことをあんな風に言われたら、どうしようもない気持ちになることもある。3年間は長いようで短かった。短いようで長かった。出会ったのは5年前で、もうそんなに経ったことが不思議に感じる。3年間も一緒にいると、…

裸足

夏は裸足が快適だ。靴下を履いて、スニーカーを履いて、なんて暑くて苦痛でしかない。蒸れるし。夏は裸足にサンダルが至高だと思う。できるものなら、夏に限らず裸足で過ごしたい。でも、例えば冬に雪の上をサンダルで歩いてたら、写真撮られてTwitterやらな…

ます

小学生の頃、音楽室の壁に音楽家たちの肖像画が並んでいた。授業中、僕がそれらを眺めていると、その中のひとつ、シューベルトの顔の下に「ます」という文字列を見つけた。シューベルトの代表曲「ます」のことだ。当時の僕は、なぜかその「ます」という響きが笑い…

A20講義室より

大学に来た理由なんて、特にない。大学に行けば少しくらい人生が楽しくなるかなー、って感じで進学した。昔から、特に夢も目標も無く、ふらふらと生きてきたから、大学に行けばそれが見つかるかと思ったのもひとつ。受験の時に、色んな先生に「やりたいこと…

過去。

たまに思い出す、煙草の匂いの染み付いた空気と、片付いていない薄暗い室内。 小学生の頃、1学年が10数人の小さな学校に通っていた。高学年になって、なぜか仲良くなった4人組の内の1人の家に、ちょくちょく遊びに行っていた。 あまり綺麗とは言えない家だっ…