2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

憂き世話

河蜻蛉が、舟人が櫂を漕ぐような動きで羽を振り、初夏の川縁の空中を泳いでいる。緑掛かった虹色の体躯に四枚、漆黒の羽。夏の虫の体色に虹色が多いのには何か理由があるのだろうか。金蚉、黄金虫、玉虫、黒蝿、河蜻蛉。時に、日の光は、彼らの表面を滑り、…

憂き世話

分裂する。 分裂する? 意味が分からないけれど、確かに僕は、これから分裂するのだ。と思う。 世界はひとつの塊だ、と言う人と、世界は多数の個の集合体だ、と言う人がいる。僕は、どちらでもよいと思う。どちらでもよいと言う。 あ、そういえば、明日は日…

2021/4/20

この口から吐き出す言葉に正しいも間違ってるもクソもへったくれも無いだろ。へったくれ、って何だ? 知らねえ。どーでもいい。例えば、世界の始まりを「無」だと考える人々がいる。「無」から「宇宙」が生まれて、そっから「銀河」、「太陽系」、「惑星」、…

憂き世話

如何なる文明においても、人々は、踊り、歌い、言葉を話してきた。それらは各地でそれぞれに自然発生し、そして現在、それらは、混ざり合い、排除し合いながら、所謂「ひとつの世界」を築く重大な要素となっていること。 伝播者がいなかった、とは言い切れな…

憂き世話

友人と酒を飲んだ帰り、ふと目を開くと夜空が見えた。 自分は何をしているんだ? と思考を巡らす。あ、寝ていたのか、では、ここは? 背中にゴツゴツとした硬い感触。心なしか鉄臭い風が鼻を掠める。夜空から視線を地平の方向へ送る。首を回すと耳元でジャリ…

水底の猫 : 一〇

「大丈夫かっ」 父の大きな声が、耳が痛いほどの近くで聞こえた。水を吸って何倍もの重さになった服が智一を地面に押さえつけている。起き上がろうと腕に力を込めてみるが、身体は少しも持ち上がらず、智一は空と対峙する恰好のまま動けなかった。酸素が薄い…