憂き世話

どうしようもなくなったときには文章を書く。思ったことをただただ形にする作業。僕の脳から生み出された感情がフニャフニャとした線の集合体となり、意味を含んで他人の脳内に流れ込み他人の感情を揺らす。僕の脳とこれを読んでいる人の脳が、ある意味繋がってしまうわけで、それはとてもグロテスクな行為であると僕は思う。僕を構成する思考の一部をアナタに流し込む。それがアナタの中で消化されていく。言うなれば、脳と脳との接吻、だろうか。

 

 

仕事が忙しい。忙しいのは嫌いだ。僕の怠惰が原因で顧客にキレられる。キレられるのは嫌いだ。自分のことをまた嫌いになる。しょーもないミスをする。忘れ物をする。無くし物はいつまで経っても出てこない。頭の中で鳴り止まないあの曲。ふとした時に聞こえる、架空の救急車のサイレン。うるさい。黙れ。

全てから逃げ出したくて、音楽も流さずテレビもつけず、暗い部屋でぼーっと座っていても、耳鳴り、やかましい自分の心臓。黙れよ。

 

 

身体のどこかに剃刀を当てる。叩きつける。当然、切れる。表皮が裂けて、嫌に白い真皮が顔を覗かせる。叩きつける。真皮も裂けて、そこに小さなタピオカを無理やり詰め込んだみたいな黄色い脂肪。徐々に赤に浸されていく。同時に垂れ落ちる赤。こんな僕にも重力は作用しているらしい、当然のことだ。あぁ、僕は物体なのだ、と思う。存在しているのだ、と思う。だからといってなんなのだろう、と思う。あとは寝るだけだ。

 

 

朝が来る。だから夜も来る。単純明快な毎日。

 

 

心臓が動く。だから血液が流れる。単純明快な身体。

 

 

生まれる。だから死ぬ。単純明快な人生。

 

 

の、はずなのにな。