憂き世話

生きていたらいつか死ぬ、ってみんな知ってるはずなのに、それを考えている人ってあまりいない。自分が死ぬことを勘定に入れて生活をしている人ってどれほどいるのだろうか。人間だって生き物だ。いつ死んだっておかしな話ではなくて、例えば、あと三秒後には心臓が止まっちゃったり、脳の血管に血栓が詰まっちゃったりして、死んでしまってる可能性だってある。

 

世界は「生きている人」によって回っているわけだけれど、死んでしまった人の数の方が圧倒的に多い。百数年も経てば、もう今この世に生きている人たちなんて一人も、たったの一人もいない。

 

怖くないのは何故だろう。

 

みんながいなくなることが決まっているのに、僕はあなたと恋をしてキスしてセックスして、もしかしたら結婚しちゃったり、子供も生まれたりして、その全てが、発生した時点で消滅することは確定事項なのに、それを幸せだと、どうして言えてしまうのだろう。

 

生はイコール死だ。

 

綺麗な花も枯れる。歴史的な建造物も焼けて無くなることもある。あなたのその綺麗なまつ毛を見れなくなる日だって、必ず、必ず、来る。来てしまう。

 

だから、誰かを好きになることはとても恐ろしいと思う。どんな形にしろ、失くなることが確定しているから、会えなくなることが確定しているから、触れられなくなることが、あなたの体温とか肌の柔らかさとか忘れてしまう日が、いつか必ず来てしまうから。

 

あなたの幸せは、そのまま、いつか、どうしようもない悲しみに変わるんだよ。それでも、いいと思える人がもしもいるのなら、大切にしてあげてくれ。悲しみなんかよりも幸せを、自分の幸せを、そしてそれ以上にその人の幸せを大切にしてあげてくれ。

 

いつかくる、いつかに、馬鹿みたいに涙が出てきて止まらなくて死にたくなってしまったら、それはあなたとその人の出会いが正しかったことの証明なのだと、僕が勝手に保証する。

 

いつか死ぬから、生きている。こんなに悲しい事実を、みんな知っているはずなのに、それを考えている人ってあまりいない。だから僕が今、ここに書き残しておく。

 

死ぬまで笑っていてね。死んだら泣いてくれる人を大切に。