憂き世話

 目が覚めたら、右手の薬指がボールペンになっていたのだけれど、僕は左利きだし、薬指って一番指の中で扱いづらいので、めちゃくちゃ微妙な気分になった。せめて左手の薬指であって欲しかったな、そしたら、練習すれば普通に字を書けるようになって便利かもしれない。会議の時にボールペン持ってくるの忘れた! って時とかに重宝するし。いや、でも、あれだな、婚約指輪とか結婚指輪付ける指だな。ボールペンに指輪付けなきゃいけないのか。もう指輪じゃないじゃん。ボールペン輪じゃん。婚約ボールペン輪じゃん。

 

 ところで、インクの入れ替えってどうするんだろうこれ。もしかして、インクが無くなったら、補充できないのか? インクの出ないボールペンなんて、小型破砕ゴミでしかないぞ。そうなると、「右手の薬指がボールペンの人」じゃなくて、「右手の薬指が小型破砕ゴミの人」になってしまう。「右手の薬指がボールペンの人」ってだけでもキツいのに、

 

「あ、右手の薬指がボールペンの方なんですね」

 

「ええ、そうなんですけど、インクが無くなっちゃって、最早ただの捨てることのできない小型破砕ゴミなんです」

 

なんて説明しなきゃいけなくなるのは、もう、なんか相手方にも申し訳ないな。絶対、第一印象「なんだコイツ、指きも」なのに、追い討ちをかけるようにきもい説明だもんな。捨てることのできないゴミ、ってちょっとうまいこと言おうとしてるのもきもいな。悲しくなってきた。ちくしょう。僕が何をしたって言うんだ。何の呪いだ、これは。誰による、何のための呪いなんだ、これは。呪いなのか? これは。何も分からねえな。誰に問い掛ければ答えが返ってくるんだ。文房具屋か? 文房具屋に問い掛ければ良いのか? 文房具屋に問い掛けたところで、変な顔されるのがオチか? そもそも、なんで、ボールペンなんだ。もっと何かあるだろ。ドライバーとか。うん、ドライバーが良いな、マイナスの方。マイナスの方が使い勝手が良いんだよな。プラスドライバーとしても使えちゃうから有能なんだよ、マイナスドライバー。マイナスドライバーにしようよ。それが良いよ。ねぇ、お願いします。マイナスドライバーにしてください。僕の右手の薬指をマイナスドライバーにしてください。もう、なんなら、いっそのこと僕をマイナスドライバーにしてください。「右手の薬指がボールペンだったけどインクが無くなったから右手の薬指が小型破砕ゴミの人」なんて人生は嫌なんです。マイナスドライバーになりたいです。マイナスドライバーになるためだったら何だってします。将来の夢はマイナスドライバーです。マイナスドライバー最高。マイナスドライバーしか勝たん。マイナスドライバー万歳! マイナスドライバー万歳!