2020/10/31

ふらふらと街を歩いていたら、二ヶ月と少し前に別れた女の子からLINE電話がかかってきていて、常日頃マナーモードにしている僕はそれに気付かず、スマホをポケットから取り出したときには、画面に表示される通知のその時刻から三十分ほど経過してしまっていた。電話をかけ直すのが億劫で、LINEで「どした?」なんて返信してみる。数分後にまた電話がかかってきて、応答する。

 

ホームセンターのだだっ広い駐車場で待ち合わせる。昔から先に着くのはいつも僕で、彼女は僕の車を探し当て、その横に駐車して、助手席に乗り込んでくるのだった。今日も。

 

 

少し遠くにある喫茶店に行った。

話すのはいつも通りの話で、いつもと違うのは僕と彼女の関係性に付けられている名前だけで、それは数ヶ月前と今との決定的な違いではあるのだけれど、やっぱり特に何も変わらないことに安心するし、少しだけ悲しくもなる。

僕はコーヒーを注文して、彼女は散々迷ったあげく「お腹が空いた」と言って、たらことイカのパスタのドリンクセットを注文した。食べ切れないから半分食べてね、と彼女は言ったけれど、僕は付け合わせのサラダとパスタの三分の一程度を食べる。彼女が「シェアしようよ」と言って自分の好物を注文する時、僕はいつも少し遠慮して彼女に多く食べさせることにしていた。半分のつもりの三分の二を食べた彼女の満足そうな顔を見るのが好きだったんだよな、と思う。

 

 

「いざ男の人との出会いに尽力してみると、私を女として見る人ばかりで、ひとりの人間として見てくれる男の人なんて全く居ない。私は、好きな音楽とか本とか服装とか、そういうところに興味を持ってくれる人が良い。正直、私に女としての好意を持ってくれる人なんて沢山いる。でも、ひとりの人間として向き合ってくれる男の人は本当に少ない。女、としか見られていない。それがとても悲しい。

性欲っていうのはどうしようもなく存在していて、男と女である限りそれは避けられない問題で、でもそればかりじゃ、ずっと一緒にいるのは難しいと思う。

じゃあ逆に、人と人として向き合うだけの、男女の関係なんて放っておいてセックスも殆ど無い関係だったら、って考えるとそれも寂しい。

そのバランスが分からない。考えても分からないのは、分かってる。

 

……ねぇ、君は見た目はあまり格好良くないけど、私は君を人として本当に素敵だと思うよ」

 

 

フロントガラス越しの満月に

「あ、月が」

綺麗だね、と言おうと思って少し躊躇う。けれど、言う。

『綺麗だね』

狭い車中で、僕の声と彼女の声が重なった。

 

 

彼女が助手席のドアを開けて、外に出ていく。

手を振る。

またね、と言い合う。

また、手を振る。

また、別れる。